私はいつものように、悩みを抱えたまま眠りについていました。
仕事も、人間関係も、将来のことも、すべてが霧の中にいるような気分です。
このまま進んでいいのでしょうか。
私の選んだ道は、本当に正しいのでしょうか。
そんな思いを胸に秘めたまま、深い眠りの中へと落ちていきました。
気がつくと、そこは不思議な空間です。
夜空いっぱいに広がる満天の星。
その下に佇む一軒の小さな家。
窓からは温かな明かりが漏れ出ています。
何かに導かれるように、私はその家の扉を開けました。
「よく来ましたね。ずっと待っていましたよ」
穏やかな声が私を迎えています。
そこには、月明かりのように柔らかな銀髪を持つ老婆が座っていました。
深い知恵を湛えた瞳が、優しく私を見つめています。
「あなたは今、自分の歩む道に迷いを感じているのですね」
老婆は静かに言いました。
私は驚きました。確かにその通りです。
でも、どうしてそれを?
「星々が私に教えてくれたのです。あなたの心の中で渦巻く思いを」
老婆は微笑んで、テーブルの上に置かれた古びた茶碗を手に取りました。
「見てごらんなさい。この茶葉の中に、あなたの答えが浮かんでいます」
私は覗き込みました。
茶葉は不思議な模様を描いています。
まるで道が分岐していくような、そんな形に見えます。
「迷うことを恐れることはありませんよ。迷いは、新しい可能性への入り口なのです」
老婆はゆっくりと語り始めました。
「あなたが今、正しい道を歩んでいないと感じているのは、本当は自分の中の小さな声に耳を傾けていないからです。内なる声は、いつもあなたに語りかけているのに」
その言葉は、私の心の奥深くに染み入っていきました。
「でも、どうやって自分の声を聴けばいいのでしょう?」
私は尋ねました。
「静けさの中で、心を澄ませること。そうすれば、必ず聞こえてきます」
老婆は優しく微笑みました。
「あなたの前には、確かに複数の道が開かれています。でも、それはあなたが豊かな可能性を持っているという証です。どの道を選んでも、きっと素晴らしい花を咲かせることができます」
老婆は立ち上がり、窓辺へと歩み寄りました。
外では星々が、以前よりもさらに明るく輝いているように見えます。
「来週の満月の夜、あなたは大切な決断をすることになります。その時、恐れることはありません。あなたの直感を信じなさい。それが最も純粋な導きとなります」
「でも、失敗したら…」
私の声は震えています。
「失敗?」
老婆は優しく笑いました。
「人生に失敗なんてありませんよ。あるのは、学びと成長だけです。たとえ道が曲がっていても、それもまたあなたの物語の一部。真っ直ぐな道だけが、正しい道ではないのです」
老婆は机の引き出しから、小さな水晶を取り出しました。
星明かりのような輝きを放つその結晶を、私に手渡します。
「これは希望の結晶です。迷った時は、この光を思い出しなさい。あなたの中にも、同じ光が輝いているのですから」
そう言うと、老婆の姿が徐々に透明になっていきました。
部屋全体が、やわらかな光に包まれ始めます。
「また会えるのでしょうか?」
私は慌てて尋ねました。
「もちろんです。あなたの心が求める時に、私はいつでもここにいます」
老婆の声が、星の輝きとともに溶けていきます。
目が覚めると、私は自分のベッドの上にいました。
手の中には、確かな温もりが残っています。
水晶はなかったけれど、心の中に、あの優しい光が残っているのです。
窓の外を見ると、夜明け前の空に、一つの星が特別な輝きを放っています。
私は深いため息をつきました。
不思議と心が軽くなっています。
そうです。
道は、自分で切り開いていけばいいのです。
曲がっていても、寄り道があっても、それも人生の味わい。
これから先もきっと、迷うことはあるでしょう。
でも、もう恐れることはありません。
あの不思議な占い師の言葉と、星々の導きを、私は忘れないでしょう。
そして、また迷った時には、きっと彼女に会いに行こうと思います。
あの星降る家で、温かな光に包まれながら。